今井雅之さんの訃報報道から感じたこと

今井雅之さんの訃報報道から感じたこと
俳優の今井雅之さんが大腸がんで亡くなられてから数週間。
またしても日本の才人が、がんでこの世を去ってしまったこと..残念でなりません。

初期の診断の遅れ、壮絶ながん末期の痛みとの闘い..など、
さまざまな情報・報道が飛び交いました。

腸閉塞で発見されたということ自体、相当の進行がんの状態であったと考えられられますので、発見が遅かったことは確かでしょう。
でも、時間的経緯から言っても、最初に病院に行った時点で、すでに進行がんであったことは間違いないものと思います。

「腸のカゼ」と誤診されたなどと言われていますが、お腹の触診だけで大腸がんを疑うのは、私ども専門医であってもなかなか困難なことです。ましてやそれが、普通の内科の先生であったら..と思うと、初期診断の遅れのところを非難するのはお気の毒のような気がしています。

むしろ、今井さんが、きちんと毎年の大腸がん検診を受けていたのか..という点が気になります。
確かに、大腸がん検診は早期がんの発見率が低いなどの問題点はあるものの、今回のように進行してしまった大腸がんを見つけるにはよい検査です。

きっと、日々の忙しい生活と、自分の健康を過信してしまって、受けていなかったのだとしたら..私たち専門医がもっと声を大にして大腸がん検診受診の呼びかけが出来ていないへの責任が問われるべきかもしれません。
大腸がん検診としてブルーリボンキャンペーンをしていますが、果たしてどれだけの人がご存知でしょうか?

大腸がんは相当に進行して腸を塞いでしまうような状況にならない限り、症状として出にくい病気です。
下血に気付いていても、痔で出血したと勘違いして病院に行かず、発見が遅れてしまう人も数多く見てきました。

大腸がん検診の受診率は高く見積もっても30%程度.. 中には10%を僅かに上回る程度といった残念な報告もあります。いずれにしても、満足な値には程遠いのが現状です。

皆さん、
自分の健康を過信せず、年に一度、大腸がん検診を受けてください。
毎年受けている方は、是非、友人・親戚などを誘って受診しましょう。
そして、検査で出血ありと診断されたら、速やかに精密検査を受けましょう。

大腸がん検診についてよく解らないという方、以下のブログをご覧ください。
さあ大変? 便潜血検査が陽性だ!パート1
さあ大変? 便潜血が陽性だ! パート2

それからもう一つ気にかかること..それは壮絶ながん末期の痛みとの闘い という点です。

夜も痛みで眠れないほどの痛み..などと報道されており、緩和医療がどの程度適切に行われたのかが疑問に思います。
少なくとも緩和医療が適切に行われていれば、眠れないほどの痛みが一晩中続くことは考えにくいように思います。

今井さんのインタビューでの言葉の中に、「モルヒネで殺してくれ..」と言ったようですが、モルヒネは安楽死のために使う薬ではなく、正確には「モルヒネで楽にしてくれ..」というのが、真意ではなかったかと思います。
しかし、このままではモルヒネなど医療用麻薬はとても怖い薬で、死までの時間を短縮する薬といったような印象を受けるのではないでしょうか。

そもそも、緩和医療と安楽死の問題とは、同じ次元で考える問題ではないと思います。

緩和医療とは、がん患者さんの痛みを上手に和らげることで死への不安を少しでも減らし、日常に近い生活が送れるようにすることを目的として行われるものです。

安楽死の問題は、余命幾許もないといった状況で、苦しみや不安を受容し死を迎え容れることで自分が楽になれると思えるようになった段階で、自発的に自らの命に幕を降ろす権利があるか、を問うているものです。

以前より緩和医療への取り組みは盛んになっていて、がん性疼痛はひたすら我慢するものではなくなっています。

そういった考え方が浸透しつつある中で、医療用麻薬へのネガティブなイメージが浸透しないことを願うばかりです。

 幸田クリニック




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