俳優の原田芳雄さんが、大腸がんで亡くなられたとの報道を聞き、心からおくやみ申し上げます。大腸がん撲滅を目指している私たち専門医として、本当にやりきれない思いがあります。一方で、大腸がんという病気を公表していただき、お亡くなりになる直前まで舞台挨拶に出演して、視聴者に病について考える機会を与えて下さったことに感謝しています。せっかくの機会ですので、この機会に大腸がんについて書かせて下さい。

日本人の二人に一人はがんで亡くなる時代ですので、がんになることは珍しいことではありません。中でも結腸・直腸がんは左のグラフでも判るとおり、年々増加しているのです。でも、がんになったから必ず命が奪われるわけではありません。
「がん」というと、あっという間に大きくなって、あっという間に転移してというイメージが強いと思います。でも、実は違うのです。一部の例外を除けば、初期段階において、がんはとてもゆっくり発育するのです。
問題はそのゆっくりと発育している初期段階でうまく見つけることができるかどうかです。初期段階の期間は、一般的に5~10年くらいあるといわれています(例外は勿論あります)。初期段階では自覚症状がないため、健康診断(がん検診)で見つけることが必要となります。
そういった検診システムが整備されているのは、肺がん・胃がん・大腸がん・肝がん・乳がん・子宮頚がん・前立腺がんです。中でも、胃がんとピロリ菌、子宮頚がんとヘルペスウイルス、肝細胞がんとB型・C型肝炎ウイルスなど、感染症と発がんとの関連が明らかになってきているものもあります。それらは順次、
対策型検診(発がんリスクの高い人を中心に検診)が行われていき、今後確実に成果が上がるものと思われます。
大腸がん検診の課題は、発がんリスクの高い人を抽出するだけの疫学的証拠が乏しいことです。便秘や欧米型の食事などが危険因子といわれていますが、抽象的なもので絞り込みができず、対策型検診ができないのです。

検診自体が便潜血検査で行われているという問題点もあります。便に血が混じるかどうかを見る単純なものでは、進行がんを拾い上げることはできても、早期がんを拾い上げることは難しいのです。さらに発症年齢も年々若年化しています。今から10年くらい前は、大腸がんと言えば若くて50歳台の病気でしたが、今では40歳台でみつかることも珍しくありません。
そうなると、40歳以降の方はできるだけ内視鏡検査を受けてもらいたいところなのですが、今度は検査を行う施設が不足しています。検査を行っていても、検査時の苦痛などに対する対策が不十分で、受診者が二度と検査を受けたくないという印象を持ってしまうような施設もあります。内視鏡検査を行う間隔も問題となります。ポリープが多発しているような人は毎年行う必要がありますが、ポリープがない人や切除してしまった人はどの位の間隔で行うのか。そういった根拠がないために、毎年同じ患者さんに大腸内視鏡検査を行い、それが検査を混雑させているという点も見逃せないところです。

当院では
ポリープがない人の場合、40歳台では5年に一度、50歳台以降は3年に一度くらいの検査をお奨めしています。大腸内視鏡検査は下剤処置の関係で日に何人もできないため、どうしても予約が込み合います。切除すべきポリープを検査の機会にきちんと切除してしまい、次回検査までの間隔を開けることで初めて検査を受ける人たちが少しでも早く予約できるように努力しています。また、検査の前処置用のお手洗いも院内に増設し、一日に行う大腸内視鏡検査の数も増やしていく予定です。
大腸内視鏡検査を受けたことがなく、
「受けようかどうしようか迷われている人たちが少しでも気楽に受診してもらえる」
「一度検査を受けられた方がこのくらいの苦痛であればまた検査を受けに来ようと思える」
そんな施設でありたいと思ってスタッフと改善を重ねています。
最後にもう一度、大腸がんについて、いろいろと考える機会を与えて下さった原田芳雄さんに心からご冥福をお祈り申し上げます。
幸田クリニック