本日の朝刊で、フランスにおいてピオグリダゾン塩酸塩製剤(製品名;アクトス)処方停止の記事が取り上げられています。内容の要旨としては
「アクトスを服用していると、膀胱がんになり易いという結果が出たため、フランスでは新規のアクトス処方を禁止する」といった内容です。
詳細な内容はというと、
アクトスを服用している患者16万人は、服用していない患者133万人に比べて、膀胱がんの発症率が統計学的に有意に高かったというものです。

通常、この手のデータは幾つかの研究データを合算して評価されることが一般的ですが、今回は研究対象となる集団の人数が多く、フランスが自国民において行った研究であったことから、自国向けに早急に発信されたものと思われます。
ヨーロッパで最近、細菌性腸炎が蔓延し、スペインのキュウリが当初問題と発表され、結果的には間違っていて、スペインでは相当な風評被害を被ったということがありました。今回のことと同じとは思いませんが、一つの研究データから早急に結論付けると、同様の事象が起こってしまう可能性があると思います。特に、このようなケースでのマスコミの報道は、ある程度結論を決め付けたようなものが多くなるのが常です。ここは冷静な対応が必要と思います。
ただ、
全く火のない所に煙が発ったかとというとそうでもないようです。
アクトスが承認される前の動物実験レベルでは雄ラットにのみ膀胱腫瘍が起こっていることが報告されています。また、アクトスと膀胱がんの関係を評価するために疫学研究(KPNC研究)が進行中です。その中間解析結果では、
長期服用により膀胱がんのリスクが僅かながら増加するが、リスクを増加させるとまではいえないという結果だったようです。
この手の問題は人種差なども絡んでくることが多いと思います。また、膀胱がんなどは喫煙なども発症リスクファクターであり、それらがどのように絡むかも大事になります。
そのため、現状でアクトスが危険かどうかを私に評価しろといわれても、何とも言えないというのが正直なところです。
一方でアクトスという薬は糖尿病治療において、とても大事な薬でもあります。服用を中止してしまった際の糖尿病コントロールの悪化の可能性はあります。厳密な意味でアクトスの代わりになるような内服薬は今のところ存在しません。当院にもアクトスのお陰で糖尿病のコントロールが良くなっている方が沢山おられます。
今回の記事で、当院からアクトスが処方されている方で不安に思われる方は服用を中止して早めに相談に来て下さい。
ちなみに私の拙い経験にはなりますが、今まで数多くの方にアクトスを処方し、膀胱がんを発症したという患者さまを診た経験はありません。今後、膀胱がんになるリスクとアクトスを中止して糖尿病が悪化して合併症が起こるリスクを天秤にかけて、継続するかどうかを考える必要がありそうです。
そのリスクというのは、
性別、
糖尿病のコントロール状態、
アクトスの服用歴、
やめた場合にどの程度糖尿病が悪化するか、といったことで変わってくると思います。それらを総合的に判断して今後服用継続の是非を考えていこうと思います。
幸田クリニック